「私はインプラントができますか?」
一番多く訊かれる質問の一つです。
基本的に、インプラントは”通常の日常生活が送れる方”ならば誰でも可能です。
ご高齢であっても問題はありません(80歳後半になってインプラント治療を受けられる方もいらっしゃいます)。
これは患者さんとお話をさせていただいた上で、総合的に判断するしかありません。
逆に次のような患者さんにはインプラント治療を控えさせていただく場合があります。
- 20歳未満の患者さん(顎の成長が終わっていない可能性があり、インプラント治療には慎重であるべきです。)
- ガンの治療の一環として頭頸部に放射線治療を受けたことがある患者さん(顎の骨の状態がインプラントに向かない可能性が高いです。)
- ”重度の”糖尿病を抱えている患者さん(軽度ならばあまり問題はありませんが、内科あるいは糖尿病専門医での検診をお願いすることがあります。)
「骨粗鬆症と診断されました。インプラントはできないのですか?」
これもよく尋ねられる質問の一つです。
様々な研究を見ますと、骨粗鬆症の患者さんであってもインプラントは問題なく長持ちする、という意見と、そうでないとする意見の両方が見られます。
ただ、骨粗鬆症がインプラントに悪影響を及ぼしかねないとする研究をみても、その影響度合いは極めて小さく、治療自体を差し控えるほどのものではないというのが一般的な見解だと思われます。
私もこれまで多くのインプラント治療をしてまいりましたが、骨粗鬆症のせいでインプラント治療ができなかった、という患者さんはいらっしゃいません。
もしご心配のある場合はご相談ください。
「インプラントとブリッジとどちらがいいのですか?」
研究ではインプラントでもブリッジでも”しっかりメンテナンスをすれば”どちらも長持ちすることがわかっています。
むしろ大事なことは、治療をする前にどちらの治療を選んだ方がメリットが大きいかを慎重に見極めることです。
ブリッジは歯がなくなった部分を補うために、歯を抜いた部分のすぐ隣の歯を削って、失った歯の分も含めて、削った歯に負担を求めるという治療法です。
そのため、噛む力に対する設計を誤ると長持ちはしませんし、何よりも削った歯自体(ブリッジを被せた歯)がダメになってしまえばブリッジもダメになってしまいます。
もちろん、きちんとメンテナンスをしていけば長持ちすることは先に述べたとおりです。
逆にインプラントは歯を抜いた部分に人工のネジを埋め込むという方法のため、通常は他の歯を削ることはありません。その結果、抜歯をした部分の周囲の歯へのダメージは減ります。
またインプラント自体は人工物のため、虫歯になることはないという大きなメリットがあります。
ただインプラント治療には手術が必要ですし、一般にブリッジよりも治療期間も長めで、費用も高価となります。
メンテナンスを怠ればインプラント周囲炎というインプラント版の歯周病によって、究極的にはインプラントが抜けることもありえます。
従いまして、残っている歯の状態、噛み合っている歯の状態、歯磨きの状態、全身の状態、などを総合的に判断して、どちらが患者さんに適しているかを決める以外に最善の方法はありません。
患者さん一人一人の状況によって、インプラントが最善と思われる場合もあれば、ブリッジがベストの方法だと考えられる場合もあります。
敢えて分かりやすい目安を一つ挙げれば、
- 「歯が連続して2本、あるいはそれ以上なくなってしまった場合」
- 「歯と歯の間の1本だけがなくなったが、両どなりの歯はきれい(かぶせ物がされていないなど)で、これらの歯を削りたくない場合」
はブリッジよりもインプラントをご検討いただいた方がよいと思います。
「インプラントは一生持つのですか?』
残念ながら、一生持つと保証できるものではありません。
医学という性格上、また人工物である以上、致し方のないことです。
考えてみてください。
口の中は常に多湿(ほぼ100%)で、熱いコーヒーを口に含むこともあれば、その直後に冷たいアイスクリームを食することもあるという具合に、温度変化にしても極めて過酷な環境です(←同じことをガラスコップでやればコップは割れてしまいます)。
そして、会話や食事によって常に上下の歯が強い力で噛み合っています。それも1日に何万回もです。
このような環境の中で歯はもちろん、人工物であるインプラントが全く劣化しないということは考えられないことです。
やはり人工物ですから、徐々に何らかのダメージは受けています(自動車のタイヤやネジと同じです。自動車のタイヤも劣化したり破裂したりする前に、メンテナンスや車検を受けて、トラブルが起こらないように劣化した部分は取り替えます。それでもやはり予期しないトラブルは起こりえます)。
そうは言っても、現在主流となっているタイプのインプラントが使われるようになって40年以上が経過し、“適切な治療とその後の適切なメンテナンス”を行えば、インプラントは20年以上問題なく維持できることも分かっています。
インプラントが長持ちしない大きな理由としては、歯周病が口の中に広がっている場合であるとか、定期的なメンテナンスを歯医者で行なっていない、などは学術的に立証されています。
ただこうした科学的な根拠以外にも、経験論ではありますが、
患者さんの“インプラント以外の歯”が何らかの理由でダメになり、インプラント治療を行った当初と大きく噛み合わせが変わってしまった場合に、口の中に残っているインプラントに過度な負担がかかってしまってその結果失敗したのではないか、
と思われる場合が時折見受けられます。
このようなことから、インプラント治療において重要なのは、インプラント以外の他の歯がこの先もきちんと使えるかどうかをまずしっかり診断し、計画を立て残せるように治療しておくということだと思います。
(当院では、インプラントの被せ物をしてから5年間は追加の費用負担無しでの保守を行なっています。6年目以降に生じたインプラントの不具合につきましては経年数に応じて一部負担をお願いしております。)
「インプラントの値段はどうしてこんなに歯科医院によって違うのですか?」
なぜ医院によってインプラントの値段がこれほどまでに異なるのか、とよく尋ねられます。
インプラントの治療に含まれる費用は、検査費用、診断料、材料費用、手術費用、技工費用(技工士さんが被せ物を作る費用)、メンテナンス費用などがあります。
医院によってはこれ以外にも費用が生じることがあると思いますが、基本的にはこれらを総合した金額がいわゆる”インプラント治療にかかる費用”と考えていいでしょう。
簡単にその内容をお話しします。
検査費用は、実際に口の中を見たりレントゲン写真を撮ったりすることによって生じる費用です。
必要に応じてコンピューター断層撮影(CT)を撮影することもあります。口の中の写真を撮影することも必要な場合がありますし、噛み合わせを確認するために模型(歯型)を採取することもあります。
インプラントは自由診療になりますから、健康保険によって術前や術後の検査の費用が賄われることはありません。
診断料ですが、技術費用の一環と言ってもいいでしょう。私はこれが最も大事な項目だと考えます。ここを誤るとこの先の治療の全てが間違いになるからです。
この診断技術を向上させるためには、相当の勉強と技術の研鑽が必要で、歯科医はここに多大な投資をしています。
日々の診療後に研修を受けたり、週末には学会に赴き治療技術だけではなく、診断や治療技術のトレーニングをするのです。決して一朝一夕で培われる能力ではありません。
大変申し上げにくいことですが、患者さんにはわかりにくいことかもしれません。
歯科医院の中ではただ口の中を見ているだけ、レントゲン写真を見ているだけ、と思われるかもしれません。
しかしそうではなく、それらを拝見しながら、どう治療を組み立てていくかを歯科医はほぼ同時に計画しています。むしろある程度の治療の最終ゴールがその時点で見えてきます。
あえて申し上げれば、これこそが専門医の力だと言えます。
私がアメリカの大学院にて専門医教育を受ける過程でも言われたことですが、
“治療法はいろいろある。しかし診断は一つである。”
まさに診断するということはそのくらい重大で貴重なことです。
材料費用ですが、いろいろなものがあります。一番わかりやすいのは手術で使用するインプラント体でしょう。値段は上から下までさまざまです。
いわゆるメジャーブランドである欧州製から日本製、その他アジア国内製、とあります。
今はインプラント治療の歴史自体も長くなり、国際的に広く販売されているものは品質がかなり向上してきています。
私がインプラントの材料を選択する上で重視する項目の一つは、そのインプラントが世界的に使用されているかどうか、ということです。
当院ではスイス製のストローマンインプラントを使用しています。それは長年研究された製品であるため、品質に問題がないこと、今後の供給に不安がないこと、という信頼性があるからです。
人体に埋め込む材料が、信頼に足る品質を満たしていない可能性があるとすれば、どうお感じになるでしょうか。自分の家族が患者さんだとしたら使用できるでしょうか?
供給不安の恐れがないことも重要です。
過去数十年に渡って研究され尽くしたインプラント材料であるからこそ、全世界で何百万人という人に応用されており、材料が供給されなくなるという不安がありません。治療後にも保守されるべきインプラントが全世界に存在しているからです。
これが歴史が浅い、国際的に研究もあまりされていない、それほど知名度のないインプラントともなると、供給会社が“売れない”と判断すれば、あっさり販売をやめてしまいます。
そうするとどうなるでしょうか。そのようなインプラントを用いて治療していれば、その先の保守ができなくなってしまいます。
40歳でインプラント治療を受けたと仮定します。寿命が90歳とさらに仮定すれば、この先50年は部品が供給されなければ万一の保守ができないのです。
メジャーブランドのインプラントは材料費用としても高額です。ですが、信頼に足るものであることは専門医として自信をもって断言できます。
(時々ですが、インプラントの治療途中で当院へ転院されてくる患者さんがいらっしゃいます。その場合に当院で用いているインプラントとは異なるメーカーであることは多々あります。
そのような状況で当院にて治療継続を希望される場合は、ご相談いただき、既に患者さんに装着されているメーカーを利用して治療を行うことはありえます。)
手術費用ですが、これも歯科医院によって様々です。技術費用が主な部分を占める場合もあれば、追加の材料費用を含めることもあります。
技術費用に関することとしては、手術に際してさまざまな器具を用意しておかなければならないことが挙げられます。手術の準備自体もかなり手間のかかるものであることをご理解いただければと思います。
追加材料費用については特に、インプラント治療に必要な顎の骨の量が十分でない場合には、骨造成治療が必要となることがあり、さまざまな材料を用いる可能性があるため、費用は多岐にわたります。
この項目は、歯科医院ごと、あるいは患者さんごとに全く異なるのではないでしょうか。
ただ最初からインプラント治療に必要な顎の骨の量が十分にあるという患者さんは極めて少数であり、手術費用については患者さんの顎の骨の状態に大きく左右される項目だと言えます。
技工費用ですが、これはいわゆる“被せ物”を作成するのに必要な費用です。
きちんとした品質(精度・見た目・材料の選択眼など)の被せ物を作成できる技工士さんはどこにでもいらっしゃるわけではありません。研鑽を積んだ技工士さんにお願いする必要があります。
最近はAI(人工知能)が設計するような場合もありますが、最後はやはり人の手が必要です。
「被せ物は一つ一つがオーダーメイド」であり大量生産品とは異なるからです。
見た目が気になる前歯の治療などでは特に重要になります。
当院では熟練した技工士さんに常に製作をお願いしており、密にコミュニケーションを取りながら、インプラントの被せ物を作っていただいています。
そしてきちんとしたものを作成する技工士さんには見合う対価をお支払いする必要があります。
(過去数十年、古い世代の心ない歯医者さんがこの技工士さんへ支払う技工料金を値切りに値切ってきたために、技工士さんは職業として成り立たないほどにまでなってきてしまっています。)
真っ当な製品は真っ当な対価からしか決して生まれません。
特にこのような人の手が必ず必要なものはそうである、と言ってよいでしょう。
メンテナンス費用ですが、これも医院によって様々です。
当院で手術して埋入したインプラントについてはメンテナンス(定期的なチェックとクリーニング)を無償で行ない、修理が必要になった場合は、被せてから5年間は無償保守を行なっています。
他の歯科医院にて手術されたインプラントについては別途メンテナンスの費用をお願いしています。
このようにさまざまな費用が合計されて、インプラントの治療の価格が決まります。
むしろ“インプラント1本につきいくら”という価格設定がいかに難しいものか、ということが少しでもご理解いただければ歯科医として幸甚です。
それでも敢えて申し上げれば、2025年現在でインプラント1本の価格(手術で埋めるインプラント体と被せ物を含めた価格)が30-40万円を下回る場合は、ここに書かせていただいた項目のどこかで妥協せざるを得ないのではないか、と思います。
インプラント治療は健康への投資であり、それも高額な投資です。きちんと治療を行えば十分に患者さんの健康に資するものだと考えます。
「他の歯科医院で治療したインプラントの調子がおかしいのですが、何とかできますか?」
よくお電話にていただく質問です。正直に申し上げれば、一度拝見しないと何とも判断することができません。
ただインプラントのトラブルは、まずインプラントの手術を行った先生ご本人に診てもらうことが大原則です。
なぜなら使用したインプラントの状態や材料について最も情報を持っているご本人であり、手術時の患者さんの顎の骨がどのような状態であったかといった、その後のインプラントの経過を左右するような貴重な情報を持っているからです。
歯と似てはいますが、インプラントとその被せ物は精密な部品の集合体であるため、歯と異なりどの歯医者でも簡単に修復できるものではありません。そのインプラントに合う純正の部品が必ず必要です。
極端な例えかもしれませんが、自動車のトラブルで考えてみましょう。
トラブルが生じて、修理工場に持ち込まれたとします。当たり前の話ですがトヨタの車はトヨタの工場に持ち込むでしょうし、日産の自動車であれば同様に日産の工場に持ち込むでしょう。
それは、そこに自社の自動車に関するノウハウがあり、修理に必要な器具や材料があるからです。
さて、ではそのようなことができない場合、つまり“純正品を扱う工場に持ち込めない場合“、持ち込まれた自動車をどう診断していけばいいのでしょうか?
その自動車は購入時にどんな状態だったのでしょうか?まともな新車だったのでしょうか(新品で購入した時から欠陥車だったとしたらどうでしょうか)?、このトラブルが起こるまできちんと定期的にメンテナンスされていたのでしょうか?とんでもない走り方をしていたのではないでしょうか?
持ち込まれた修理工はそういった情報を知る術がありません。あくまで持ち込まれた時点の状態で判断し、対応するしかありません。しかも修理に必要な材料が調達できるかどうかもわからないのです。
トヨタの車の修理に日産の部品を使って、まともに維持できるとは思いません。
インプラントのトラブルでも似たようなことが言えます。
もともときちんとしたメーカーのインプラントなのか?
(←メンテナンスや修理に対して材料が手に入れられるようなメーカーなのか、ということですが、そうでないメーカーや既に生産終了してしまっているものもあるのです。)
きちんと最初から顎の骨に十分に埋められたインプラントだったのか?
(←インプラントの手術はやはり技術が必要であり、長持ちさせるように手術を行うには相応の処置があらかじめ必要です。ときどき新築マンションでも地下の岩盤に基礎が届いていないといった施工不良が見つかることがニュースで報道されることがあります。住み始めはいいかもしれませんが、知らずに長期にわたって居住したり、災害が発生しトラブルがあるととんでもないことになってしまいます。既に居住しているマンションの基礎からやり直すなんてことは、おそらくとんでもない大工事になるのではないでしょうか。)
このように顎の骨に埋めこむ部分のトラブルについては、何とかそのまま使えるように補修していく治療をすること(外科治療になります)はありますが、その後どのくらい長持ちするのかということは科学的に未だ証明されていません。
それは基礎が岩盤にまともに届いていないマンションをそのまま補修しながら使っていくことに似ています。今後どうなってしまうのか予測がつかないのです。
その点をご理解いただいた上で補修治療をご提供することになります。
治療の方法によってはある程度トラブルを抱えたインプラントでも維持できるようになる場合はあります。実際そのように治療を受けられた患者さんもおられ、今のところ問題なく過ごしていらっしゃいます。
いずれにしてもそれにはまずしっかりと診察をさせていただく必要があります。
このような不確かな状況を避け、きちんとトラブルが少なく長持ちするような方法はないですか?と訊かれれば、理想的には骨に埋められたインプラント体を撤去して(多くの場合は外科手術になりますが、インプラント体の撤去は健康保険が適用されます)、穴の開いた顎の骨を回復させた上で新たにインプラントができるだけの骨の量を回復させ(保険外診療となります)、そして新たにインプラントを埋入することだと言えます。
インプラントの手術とは、家を建てるときの柱をどれだけしっかり立てるか、どれだけ基礎をしっかり埋め込むか、という安易にやり直しのきかない難しい治療なのです。