歯周病やその治療について


「歯石除去をしたり歯周ポケットの掃除をすると出血するのはなぜですか?」

歯石取りをしたり、歯周ポケットの中の深いところを掃除した時に出血するのは、決して衛生士が乱暴であるとか、下手であるとかではありません。
最大の理由は歯ぐきの健康状態そのものです。
歯周病に罹っていると、歯ぐきに通常以上の水分を含むようになります(炎症によるものです)。また歯ぐきによる歯を支える機能が低下します(細菌の毒素や炎症によるものです)。
語弊がありますが、歯ぐきの質そのものが劣化してしまうと言っていいと思います。
極端な例えをすれば、健康な歯ぐきが新鮮でハリのあるトマト、歯周病に罹った歯ぐきが熟れすぎてブヨブヨになったトマト、のような感じとも言えるでしょう。
後者をナイフでカットすると、グジュっとした果肉が簡単に漏れるイメージが想像できるかと思います。
話を戻します。そのため、器具を使って歯石とりや歯周ポケット内部の掃除を行うと、簡単に歯ぐき(正確には歯周ポケットの中の歯ぐき)が傷ついて出血してしまうのです。
これは、健康な歯ぐきではまず起こらないことです。しっかり歯石を取り、歯周ポケットの深いところを徹底的に掃除することで、歯ぐきを元の健康な状態に戻すことができます。
最初は出血したり、痛みが出たりと驚かれるかもしれませんが、きちんと治っていきます。一緒に頑張っていきましょう。

「歯周病は歳のせいですか?」

歯周病は”老化”ではありません。歳をとったから、シワが増え、白髪が増えるという加齢現象とは全く別のものです。
歯周病は細菌の感染症です。
ただ風邪などのように体の外からやってきたものによる感染症ではなく、人間がみんな口の中にもっている細菌による感染症です。
そのためいつも口の中で人体を攻撃しており、それに対して人体も常に戦っています。
そのヒトの歯周病原因菌に対して戦う力が弱くなったり、逆に歯周病菌の力が強くなったりする(歯磨きがよくないためにヨゴレが増え、細菌が増えている状態がまさにこれです)ために、人間の方が力負けしている状態が歯周病です。
ですから、ご高齢でも歯周病がほとんどない方もいれば、若いのに歯周病で総入れ歯になりかけている、という方もいます。
歳を重ねるにつれて歯周病になる、という傾向は、むしろ加齢に伴い手が不自由になったりして歯磨き自体が難しくなるから(その結果ヨゴレが溜まる)、といった要因がより大きいと思います。

「歯周病は薬を飲んだら治るものではないのですか?」

お気持ちはお察しします。歯周病は細菌によって引き起こされる病気ではありますが、その細菌は結核菌やo157のように外からやってきた菌ではなく、もともと患者さんの口の中にいる細菌によって引き起こされたものです。
ですから飲み薬(いわゆる抗生物質の内服)によって退治することはできないのです(仮に薬で大部分を退治してしまうと、菌交代現象と言って、いなくなった細菌の代わりに別の細菌が口の中に増えるという厄介な状況が起こります)。
ですから、歯周病の治療とは、歯周病原因菌と共存することが前提であり、歯周病菌が人間に対して攻撃できないような環境を作ること・攻撃を受けても耐えられる環境を作ること、が目標となります。
現時点において、それはあくまで患者さん自身による歯みがき、歯科医師・歯科衛生士による専門的な口腔衛生管理といった物理的な方法でしか達成できません。
もちろん歯ぐきが腫れたりした患者さんには抗生剤を処方することはありますし、それによって”一時的に“歯周病原因菌をやっつけることはできますが、抗生剤の効果が無くなるとすぐに元の細菌の活動性が復活するばかりか、ヘタをすれば抗生剤に対する耐性を持ってしまい、今後抗生剤が効かなくなってしまう可能性すらあります。
抗生剤による治療はあくまで一時的なものに過ぎず、根本的な治療(細菌による攻撃を減らす環境をつくる、ということ)ではありません。
現在もさまざまな薬物療法が研究されていますが、残念ながら薬を飲むだけで治る、という段階には達していないのです。なかなか細菌とは厄介なものです。

「歯周病は再発するのですか?」

一度治療して治ったとしても、定期的なメンテナンスを行わないと、高い確率で再発することが分かっています。
一度歯周病にかかった患者さんはやはり“歯周病になりやすい”と考えるべきであり、治療によって治った後も定期的にメンテナンスをすることによって、細菌が攻撃できないように口の中の汚れを除去していくことが標準治療として推奨されています。

「歯周病の治療にはどのくらいの期間がかかりますか?」

歯周病の程度と範囲にもよりますが、多くの患者さんの場合、上下左右の奥歯が歯周病にかかっており、治療が必要なケースが多いです。
その場合、歯周病の治療が完了するまでにはおよそ半年くらいは必要になるとお考えください。
また歯周病の治療が終了した後に、被せ物によって治療した歯を連結して固定したり噛み合わせを安定させていく治療が必要になることがあります。
その場合はさらに数ヶ月必要になる場合があり、患者さんのご都合にもよりますが、最終的には1年間くらい治療期間が必要になることもあります。

「歯周病の治療にはどのくらいの頻度で治療に来ないといけないのでしょうか?」

歯周病の治療では、治療を行ったらその後の治っていく経過を観察していく必要があります。
今日治療を行なって、翌日経過を見ても通常は何の変化も認めません。
ですからだいたい1−2週間に一度くらいの頻度で来院いただき、治療を受けていただくことを最初はおすすめいたします。
もちろん、歯周病の治り方によっては、頻度を短くしたり、あるいは長くしたりということはありますので、その場合はその都度ご説明いたします。

「先生のところで行っている治療で歯は再生できますか?」

結論から申し上げれば、私が行っている治療では「歯」を再生させることは残念ながらできません。
2025年現在、歯科において一般的に行われている再生治療とは”歯の再生治療”ではなく、”「歯周組織(歯を支える歯ぐきや骨)」を回復させる治療”であり、歯そのものを再生させる技術はまだ応用されていません。
ここからは全くの私見となりますが、近い将来において歯そのものの再生が実用化されるのは極めて難しいと考えています。
その理由は

  1. 治療費(歯の再生にかかる費用)が膨大になる可能性があること、
  2. 必要となる歯が再生できるかが不確かであること、
  3. 短期間で再生できるか不明であること、
  4. 再生した歯がどのくらい持つのかが不明であること、

が挙げられます。

1.については少なくとも、今行われているインプラント治療の費用(歯科医院にもよりますが大体一本40万円程度)よりも安価でないと患者さんにメリットはあまりないと思われます。
2.については、例えば前歯を失ってしまって前歯が欲しいのにもかかわらず、何らかの方法で歯を再生できたとしても、元の前歯が確実にできるかどうかがわからないことです。
もし奥歯のような形で再生してしまったら、失った歯の代わりとして使えません。
3. については、再生治療ができたとしても、遅くとも再生治療開始後1年以内に代わりの歯として使えなければ、多くの場合インプラントをした方が早いということになるでしょう。
4.についてはもっとも重要なことですが、再生した歯がどのくらい持つのかは技術が確立して応用され、長い年月が経たないとわからないことです。
繰り返しになりますが、現時点(2025年)では、残念ながら歯の再生治療は治療法として確立していません。あくまで”歯周組織(歯を支える歯ぐきや骨)を回復させる治療”となります。
歯周組織を回復させることで、歯周病でグラグラしている歯の寿命を延ばすことができますし、他院でインプラント治療が困難だと言われた患者さんに対しても、インプラント治療を行える場合があります。
科学的にも十分に根拠がある治療法だと言えます。

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